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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)5439号 判決

判  決

東京都板橋区志村前野町一九四一番地の二

原告

橋爪与三左衛門

右訴訟代理人弁護士

松島政義

同所一九四三番地

被告

門山三郎

右訴訟代理人弁護士

天野憲治

村藤進

右当事者間の昭和三六年(ワ)第五四三九号違約金等請求事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

被告は原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和三六年七月二六日以降完済に至る迄年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において、金三〇万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は、被告との間の東京地方裁判所昭和三一年(ワ)第二八一〇号所有権確認等請求、昭和三二年(ワ)第六九九六号抹消登記手続請求併合事件における昭和三四年一一月五日の口頭弁論期日において、被告と裁判上の和解をしたが、右和解の条項中には、つぎの事項が含まれている。すなわち、被告は、東京都板橋区志村前野町一、九四一番二及び同所一九四四番一の二筆の土地の一部である三八三坪四勺の宅地(以下本件土地という)が原告の所有に属することを確認し、原告はこれを被告に代金五、七四五、六〇〇円で売渡すこと、被告は原告に対して右売買代金を同月一五日及び同年一二月二五日の二回に金二、八七二、八〇〇円宛に分割し、原告方に持参して支払うこと、被告において右代金の支払を怠つたときは売買契約は解際となり、被告は原告に金一、〇〇〇、〇〇〇円の違約金を支払うこと等の事項がある。而して、右違約金の特約は、被告が売買代金の割賦金中、第一回分を支払いながら第二回分の支払を怠つた場合も、第一、二回分ともその支払を怠つた場合もともに違約金を支払う趣旨であるところ、被告は右割賦金の支払を第一、二回分と怠つたので、原告は被告に対し、右違約金一、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和三六年七月二六日以降完済に至る迄民法所定の年五分の割合による遅延損害の支払を求めるため本訴に及ぶと述べ

証拠(省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張事実中原、被告間に成立した和解条項の違約金に関する部分が原告主張のような趣旨に解されるべきであるとの点は否認し、その余の事実はこれを認める。右和解条項中の違約金に関する部分は、被告が和解で定められた土地売買代金の割賦金中、昭和三四年一一月一五日に支払うべき第一回分の支払を了しながら、第二回分の支払を怠つた場合にのみ、原告において、既に受領した第一回分から違約金として金一、〇〇〇、〇〇〇円を没収することができるという趣旨のものであつて、被告が第一、二回分とも支払を怠つたときは当然売買契約が解除となるだけであつて違約金支払債務を負担しない趣旨のものと解すべきであるところ、被告は右割賦金を第一、二回分とも支払わなかつたのであるから、これを理由に原告から違約金の訴求を受ける筋合はない。と述べ

証拠(省略)

理由

一、原告主張の訴訟事件における昭和三四年一一月五日の口頭弁論期日において、原被告間に裁判上の和解がなされたこと及びその和解条項中に、被告において本件土地が原告の所有に属することを確認し、原告がこれを被告に代金五、七四五、六〇〇円で売渡すこととし、被告が右売買代金を同月一五日及び同年一二月二五日の二回に、金二、八七二、八〇〇円宛に分割し、原告方に持参して支払うことを約したこと及び被告の代金債務の不履行に関する違約金の特約等の事項が含まれている事実は当事者間に争いがない。

二、よつて、右和解条項中の違約金の特約の趣旨を探究するに、成立に争いのない甲第一号証(和解調書の正本)によると、右違約金の特約というのは、右和解条項の第二項に「原告は被告に対し、前項の西半部乙地(本件土地を指称する)を坪当り金一五、〇〇〇円也で売渡すこと。被告は原告に対し、右代金中金二、八七二、八〇〇円を昭和三四年一一月一五日限り、残金二、八七二、八〇〇円を同年一二月二五日限り原告代理人方へ持参して支払うこと。」とあるのを受け、同第四項において「若し被告が第二項の代金支払を怠つたときは当然同項の売買契約は解際となり、原告は既に受領した金額のうち金百万円を違約金として没収する。」という条項であることが認められる。而して、右和解条項の文章は、文理上、一見被告の主張するように、割賊金の第一回分を支払いながら第二回分の支払を怠つたときにのみ違約金を支払う趣旨であると解すべきかのようである。しかし、そのような趣旨の違約金の定め方は、当事者が実際の損害額を証明したときはその額による旨の特約がある場合は別として(本件ではそのような特約は認められない)、普通の場合には、債務不履行の程度が高ければ違約金を支払わず、低ければこれを支払うという条理に反する結果になるので、特段の事情がない限り、一般人はかかる定め方をしないものというべきであるところ、これを是認できるような特段の事情が認められないので本件違約金に関する約定を前示のような趣旨に解すべきでない。以上の事実に、原告本人尋問の結果を斟酌すると本件違約金に関する約定は、結局、原告の主張するように、被告において、第一、二回分の割賦金の支払を全部怠つた場合にも違約金を支払うことを約したものと解するを相当とする。被告本人の供述中、以上の認定に牴触する部分は信用できない。

三、而して、被告が前記和解で原告に支払うことを約した売買代金の割賦金につき、第一、二回分ともその支払を怠つたことは当事者間に争いがない(被告は本件売買代金支払の債務が原告の負担する債務と同時履行の関係にあるとか、その他、債務不履行を正当ならしめるべき何等の抗弁をも提出していない)ので被告は原告に対して違約金一、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和三六年七月二六日以降完済に至る迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。よつて、原告の請求は理由があるからこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第一三部

裁判官 石 田  実

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